さまざまな規模のダムがありますが、それぞれ目的があって建設されています。日本のダムの目的はFNAWIPの記号で表されます。

F 洪水調整

流域に豪雨が発生した際にダムに流れ込む水を溜めて下流に流す量を調整して下流の河川氾濫を防ぎます。多くの場合、流れ込んだ水をすべて溜めるのではなく決められた量を流しながら、溜め込みます。

ダムの貯水量には限界があるため、降雨期や豪雨が見込まれる場合には予め放流してダム水位を下げる操作が行われます。下の写真は荒川水系 滝沢ダム

また元々この機能を想定していないダムでも関係各所で治水協定を結び洪水調整に役立てる運用も近年始まっています。(多摩川水系 小河内ダム白丸調整池ダムなど)

貯水量が少ない滝沢ダム(2021年11月)
貯水量が少ない滝沢ダム(2021年11月)

N 流水の正常な機能の維持

やや漠然としていますが、端的に言うとダムができる前の河川が荷なってきた役割を維持する目的です。例えば河川から農業用水を取水していたような場合は、それが可能なように放流量を調整するなどです。

生態系の維持もこの目的に含まれ、珍しいところでは下久保ダムでは下流の名所三波石峡の石を美しく保つために、建設から30年以上たってから改めて放流を行うこととなり、この機能が追加されました。

下久保ダム堤体を下流側から望む(2021年6月)
下久保ダムを三波石峡から望む(2021年6月)

A 農業用水

農業には莫大な量の水が必要です。このため農業の盛んな地域では農業用水の確保のためにダムが建設されます。矢木沢ダム(群馬県)や広瀬ダム(山梨県)のように中~大規模な多目的ダムの目的の一つとして組み込まれる場合や千葉県の小規模なアースダムは農業用水専用となっているものが多いです。下の写真は安房中央ダム

安房中央ダム(2020年8月)
安房中央ダム(2020年8月)

W 上水道

日常生活の中で最も重要で欠かせないものが上水道です。ダム建設の大きな目的の一つでもあります。特に大正~昭和にかけて全国各地で都市が大規模化してくると従来の井戸や河川からの取水、導水だけでは供給不足となり、大規模なダムによる貯水と取水が計画され実行されました。東京都で言えば村山貯水池や小河内ダムがそれらに当たります。

水量が少ない小河内ダム
水量が少ない小河内ダム

なお現在では東京圏の大都市を賄うにはこれらでも不足し、荒川水系(浦山ダム二瀬ダム滝沢ダム)や利根川水系(矢木沢ダム奈良俣ダム藤原ダム下久保ダムなどなど)からも大規模な導水を行って需要を満たしています。

浦山ダムの堤体
浦山ダムの堤体を下流側から望む

I 工業用水

工業用水の確保が目的として挙げられているダムがあります。この目的のダムは偏在する傾向があり、東海、四国、山陽地域で多くそれ以外の地域ではあまり見られません。東海・山陽は化学工業、四国は製紙業が盛んなため工業用水の需要も多いものと推察します。

下の写真は関東では珍しい工業用水専用の郡ダム

郡ダム(2021年10月)
郡ダム(2021年10月)

P 水力発電

水力発電は近代のダムの最も主要な目的「でした」。というのも現代では電力需要の方が大きくなって水力発電は全電力供給の10%程度を担うにとどまっており、またこの傾向は発電に適した場所が減ってきていることから今後も変わらないと思われます。とはいえ、重要な目的の一つであることも変わりありません。

水力発電には河川から流れ込む水を使用する一般水力と下池と上池を設置して電力に余裕があるときに下池から上池に水を揚げ、需要が多いときに上池から下池に水を落として発電する揚水式発電があります。揚水式発電は河川からの流れ込みがない純揚水式と混合式に分けられます。下の写真は世界で有数の高低差と発電能力を持つ葛野川発電所の上池、大菩薩湖(上日川ダム)です。

上日川峠の手前の絶景(2021年11月)
上日川峠の手前の絶景(2021年11月)

日本は世界的にみても揚水式発電の設備が充実している一方で稼働率が3%程度と非常に低い残念な状況です。揚水式発電の場合、発電能力とは別に貯水量が重要ですが、日本では発電能力は高いものの貯水量が少ないという弱点があり稼働率が向上しにくいようです。また揚水式発電は出力調整が難しい原子力発電との組み合わせに向いていますが原子力発電所がほとんど停止している現状では揚水式発電に回すだけの電力の余裕がないという事情もあるかもしれません。

世界のダムの目的

以上は日本のダムの目的ですが世界のダムでは更に別の目的を持っているものもあります。

物流

日本では河川を物流に使用したのは江戸時代までですが、大河川が多い海外では物流に使用されます。大河川とはいえある程度の水深がないと大きな船は行き来できないためダムを建設して水深を確保します。

Mine Tailing

日本語に直訳して上手く表現できる言葉が見つかりませんでした。近いのは鉱滓ですが、様々な資源の鉱山で発生する(しばしば有害な)副産物をひっくるめてmine trailingとしている点で更に広い概念のように思えます。日本には存在しないわけではなく神岡鉱山や足尾銅山などには鉱滓ダムが存在します。

大規模なものは海外に多く時々崩落、崩壊して周辺に大被害をもたらすことがあります。日本国内では一般に周囲に住宅がなく直接被害をもたらすことは少ないですが、周囲の水系を汚染するなどの問題が少なからず発生します。

発展の裏側にある負の遺産とも言えるでしょう。